比、伝統衣装に機械化の波 手縫いと共存目指し次世代へ

 パイナップルの葉の繊維などを織ったフィリピン人男性の伝統的な正装、バロンタガログ。手縫いが主流だったが、職人不足と需要増で生産が追い付かず、最近はコンピューターでデザインしてミシンが自動で縫い上げる機械化が進んでいる。昔ながらの手縫いと最新技術を共存させ、伝統文化を次世代につなぐ取り組みが始まっている。

 首都マニラから南東に車で約2時間半のラグナ州ルンバンはバロンタガログの手縫い職人が多いことで知られ、工房や店があちこちにある。軽くて透ける薄い布地と、繊細な刺繍(ししゅう)が特徴だ。そのうちの1軒、フレデリック・バーチェスさんが経営する店は、多くの上院議員や駐フィリピン大使を顧客に持つ名店だ。店内の床には女性3人が座り、真剣な表情で黙々と針と糸を動かしている。

 白を基調とした長袖のバロンタガログは、スペイン植民地時代から継承されてきたとされ、結婚式や重要行事の際に着用する。ドゥテルテ大統領も、国際会議や外国要人との会談時に身を包む。

 「より上品に見えるから手縫いを大切にしたい」と話すバーチェスさん。一方、縫製の機械化も進めており、店の隣の工場では、コンピューターと連動した十数台のミシンが昼夜稼働し続ける。

 「数十着作るのに機械なら1日だが、手縫いだと1週間以上かかる」。バロンタガログの需要は経済成長による中間層の拡大に伴って増えつつあり、手縫いでは供給が間に合わない。職人の後継者不足も課題で「技術習得に時間がかかり、若者は他の仕事を選んでしまう」とため息をつく。

 伝統の継承と需要への対応。バーチェスさんはそのバランスに悩みながらバロンタガログの生産に励んでいる。(ルンバン 共同)