家計にのしかかる負担 再生可能エネルギー普及に課題

 太陽光や風力といった再生可能エネルギーの普及拡大を図るために「固定価格買取制度(FIT)」が導入されてから5年が経ちました。再エネに対する期待の声も多く聞かれますが、利用者の負担が大きく増えている事実も。今後さらに再エネが普及すると、家計に一層の負担がかかることも想定されます。再エネの課題について改めて考えてみました。

再生可能エネルギーの拡大にはどんな課題があるのですか?

 発電時に二酸化炭素を出さない再エネの拡大は、地球温暖化対策の上でも重要です。しかし、再エネにはいくつかの大きな課題があります。最大の課題は発電コストが高いことです。発電量のわりに設備の建設費などが高く採算が合わないため、なかなか導入が進みませんでした。

 そこで国が2012年度に導入したのが、「固定価格買取制度」です。これは、事業者が再エネで発電した電気を電力会社が割高な価格で一定期間買い上げ、その費用を「賦課金(ふかきん)」として、電気料金に上乗せして利用者に負担してもらう仕組みです。

 この制度の導入により、太陽光を中心とした再エネの比率は、導入前の約10%から16年度には約15%まで高まりました。

 一方で、買い取り費用が増大し、賦課金も毎年上がり続けています。17年度の標準的な家庭の賦課金は、年間で8千円を超える見通しです。これは、制度が導入された12年度の約12倍です(図1)。国は30年度に再エネ比率を22~24%程度に高めることを目標としており、賦課金はさらに増える見込みです。

図1 家計の負担は増え続けている

図1 家計の負担は増え続けている

 日本よりも早く同様の制度を導入し、30年に再エネ比率を約5割に高めるとしているドイツでは、17年の賦課金が年間で240ユーロ(約3万1千円)にまで達する見通しです(図2)。

図2 ドイツの家計負担は日本を大きく上回る

図2 ドイツの家計負担は日本を大きく上回る

 再エネのもう一つの課題は、発電量が天候に左右され、不安定なことです。電気は貯めることができないため、発電量と消費量を常に同じにする必要があり、例えば太陽光の発電量が急激に落ちると、その分、火力発電の出力を上げてバランスをとらなければなりません(図3)。再エネの比率が高まったとしても、バックアップのための電源を準備しておく必要があるのです。

図3 太陽光は天候に左右され不安定

図3 太陽光は天候に左右され不安定

 こうした再エネの課題を考えると、原子力や火力を含めて電源をバランス良く組み合わせる「エネルギーミックス」がとても重要だといえます。

再エネで原子力代替は極めて困難

専門家に聞く サイエンス作家 竹内薫氏

 再エネの比率を高めていくことは重要だが、東日本大震災前に約3分の1を占めていた原子力発電を100%代替することは、今の人類のテクノロジーではできない。

 再エネの比率が高くなればなるほど、電力の供給は難しくなる。電気は貯められないので、常に需要と供給を一致させる必要があるからだ。

 テクノロジーのブレークスルーによって、極めて大量の電気を貯めておける電池が開発されれば、原子力を代替することも可能かもしれないが、それにはまだ百年単位の時間がかかる。

 国にとって、エネルギーが脆弱(ぜいじゃく)になるのは非常に危険だ。安定したエネルギーの供給は、経済成長と社会生活を支える。「賦課金」として大量のお金を徴収し、経済と社会に負担を求めるのは本末転倒。このような仕組みを永遠に続けることは困難だと思う。

 再エネを「エネルギーミックス」における重要な電源と位置づけることは必要だが、原子力をすべて代替するというのは技術の実情を無視した考えだ。多様な電源を組み合わせてリスクヘッジする必要がある。

サイエンス作家 竹内薫氏

サイエンス作家 竹内薫氏

竹内薫氏