フィリピンは、大学や職業訓練校など112の国立教育機関の授業料無償化が決定した。今年5月に国会で可決した「無償教育法」をめぐっては、大統領拒否権の発動をめぐる攻防が続いていたが、8月に入ってロドリゴ・ドゥテルテ大統領が署名に踏み切った。現地紙インクワイアラーなどが報じた。
同法案については、予算管理庁のベンジャミン・ディオンコ長官が必要となる予算が年1000億ペソ(約2140億円)に達するとし、資金不足と財政悪化の懸念からドゥテルテ大統領に拒否権の発動を進言していた。
授業料の無償化には貧困学生の救済の一面もあるが、これについても同長官は疑問を呈していた。国立大などに在籍する貧困層出身の学生は12%にすぎず、結局は裕福な家庭が恩恵を受けることになるとの主張だ。
これに対し、無償化に賛成する国会議員らは、年間の予算は200億~250億ペソでおさまるとしていた。貧困層出身の学生の割合についても、貧困ラインに近い低中所得層を含めれば60%に達するとし、大統領に署名を求めていた。
ある賛成派議員は「政府はインフラ整備に1兆ペソを拠出すると約束している。教育に予算を割けない理由はない」と述べ、署名は当然との認識を示した。別の議員も「数百万人の若者の利益になる。経済発展のためにも、若者への投資が必要だ」と法案の意義を強調した。
ドゥテルテ大統領が署名に踏み切った背景には、短期的な財政上のリスクよりも将来的に無償化がもたらす利益の方が大きいとの判断があったとみられている。
賛成派の議員は、最も重要な人材投資が実現すると署名を歓迎し「ドゥテルテ大統領と現政権の功績として長く語り継がれるだろう」と述べた。(シンガポール支局)