【論風】第4次産業革命下の日本企業 組織能力重視の戦略立案を

2017.6.1 05:00

 □東京大学政策ビジョン研究センター教授・渡部俊也

 およそあらゆる機器がインターネットで結ばれて、そこから発生するビッグデータと、端末で機能する人工知能(AI)の活用が最大化することにより、新たな価値創造が可能となる。この技術革新は業種を問わず大きなインパクトを与える。ネットでつながれる機器は、自動車から家電、プラント機器、ヘルスケアから金融関連機器にまで及ぶ。機器自身に備わっている機能よりも、ネット経由でデータに基づきAIによって提供される価値が相対的に高まる。こうなると機器を所有していることのメリットは少なくなり、ネット経由で提供されるサービスが「どのような条件と価格で提供されるのか」がより重要になる。このような変化によって、機器をユーザーに提供する際は、モノ売りよりも、サービスとして提供される方が合理的と感じられるようになっていくだろう。

 自動車でさえ所有の意義は薄らいでいく。自家用車の一部はカーシェアリングや送迎サービスに置き換わっていくように、多くの業種でビジネスの生態系は抜本的に変容していく。ネットビジネスの法人向けと個人向けの垣根も変化し、需給関係の革新や人とロボットとの共同作業へ移行するなど、さまざまな社会経済の変化が同時に起こることが予想されている。「第4次産業革命」ともいわれるゆえんである。

 ◆組織の役割を見直し

 このような変化に際して、個々の企業はどのように対応していけばよいのだろうか。筆者は企業の戦略策定の支援プログラムを実施しているが、多くの企業でこのような変化に備えて、企業の組織の役割を変えようとしている姿を目にする。「今までは考える必要がなかった、まったく異業種の業界をカバーして経営戦略を考えるようになった」(経営企画部門)、「今までとはまったく異なる専門性の人材開発と獲得に従事し、新事業開発のイニシアチブをとることも求められるようになった」(人事部門)、「伝統的な知財管理から脱して、データアクセスに関する契約や個人情報保護なども守備範囲に入れることを検討している」(知財部門)-などである。

 これらは、大きな環境変化に備えるための準備が多くの企業で進められていることを示している。組織の役割の変容は、今後の環境変化に対応したものであり、それを乗り切るため立案された戦略が反映される。「組織は戦略に従う」といわれるように、全社の経営戦略が明確であれば、多くの部門でその戦略に対応することは当然だ。しかし上記の事例をみていると、必ずしもそのような過程で生じているものではないことに気づく。日本の企業では自部門の組織能力を重視した戦略の考え方が目立つ。どちらかというと「戦略は組織に従う」という形である。

 ◆主役はミドルマネジャー

 実際、戦略と組織の関係は単純ではなく、組織の能力がそもそも戦略実行に際して不足しているのであれば、そのような戦略をトップが決めても実効性はない。欧米企業では大きな変化に際してM&A(企業の合併・買収)などで対応することも少なくないが、M&Aを活用できる能力そのものも組織能力の一つであり、昨今の失敗事例に代表されるように、日本企業が必ずしも得意にしているわけではない。

 その点、今回の第4次産業革命に遭遇しつつある日本企業は、組織能力をまず重視した戦略立案を試みるのも重要である。特に、モノづくり製造企業が蓄積してきた組織能力とは何なのか、それを突き詰めることなしに、情報産業的なビジネスモデルに変換しようとしても、競争力の源泉を失うだけになってしまう。組織と戦略の関係をこの変化の中でどうとらえるのか、過去の日本産業の総括にも等しい作業を経て、初めて第4次産業革命への準備が可能なのではないか。そのためには会社の各組織の能力を熟知するミドルマネジャーの戦略構築における役割が大変重要なのである。

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【プロフィル】渡部俊也

 わたなべ・としや 1992年東工大博士課程修了(工学博士)。民間企業を経て96年東京大学先端科学技術研究センター客員教授、99年同教授、2012年12月から現職。工学系研究科技術経営戦略学専攻教授兼担。57歳。東京都出身。

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