9日に承認、成立した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐる国会審議は、最後まで低調だった。政府・与党が当初目標とした米大統領選(11月8日)までの衆院通過は、閣僚や自民党幹部が失言などのオウンゴールを連発したため達成できずじまい。大統領選で当選したトランプ氏がTPP脱退を明言するにいたって、国会審議は消化試合の様相を呈した。
「道化師の寂しい独り舞台だ」。民進党の大野元裕氏は9日の参院TPP特別委員会で、トランプ氏の離脱表明で発効が見通せないまま、国内の承認手続きを淡々と進める安倍晋三首相の姿勢を皮肉った。
首相は、自由貿易の重要性や日本の意思を世界に示す意義を強調し、「立ち止まって考えるのはリスクがないように聞こえるが、現実にはTPPの可能性を失わせるもので無責任だ」と反論し、トランプ氏の翻意に期待をつなぐ。
野党は、TPP発効で増加が予想される輸入食品の「食の安全」などに関しても追及した。だが、発効条件となる肝心の米国のトランプ氏が離脱を表明したため、議論は深まらず似たような質疑が繰り返された。
そもそもTPPをめぐる審議は誤算続きだった。与党は当初、衆院通過目標を「10月28日」と設定したが、山本有二農林水産相らの「強行採決」発言に野党が反発。「デッドライン」とされた米大統領選も越え、参院送付は11月10日までずれた。
参院特別委での審議時間は衆院に迫る約63時間まで積み上げた。自民党の吉田博美参院幹事長は9日の記者会見で、TPP審議について「熟議の参院としての存在感が示された」と胸を張ったが、与野党には徒労感が漂う。(沢田大典)