「米保護主義」加速の危うさ 篠原尚之・前IMF副専務理事 (1/2ページ)

2016.11.12 05:00


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 米大統領選を振り返ると、トランプ氏は「米国第一」というスローガンの下、ナショナリズムに傾いた主張を行い、クリントン氏は伝統的なグローバリズムに比重を置いたオープンな米国を唱えてきた。しかし、所得格差などの経済的困難は、自由な貿易や移民受け入れに起因するとの認識が広まっていることから、悩める中低所得層にとってクリントン氏の考え方への反発が強かったようだ。

 トランプ氏の経済政策については、整合的に説明できる姿になっていない。また、選挙戦で訴えた政策がそのまま実行されるわけでもない。ここでは、経済や市場に大きな影響を及ぼしそうな、財政と貿易の問題を中心に取り上げる。

 ◆景気刺激策に転換

 財政では、景気刺激的な政策への転換が予想される。トランプ氏は、法人税率の35%から15%への大減税を唱え、中高所得層への所得税減税を掲げている。また、インフラ投資の拡大や軍事支出の増強を提案している。

 法人税減税は、伝統的な共和党の考え方と軌を一にするものであり、議会も同調できる。一方、インフラ投資拡大は、米国経済再生の処方箋として民主党的な主張である。トランプ氏がお株を奪った形であり、先の大統領選勝利演説でも強調した政策である。

 大減税と財政支出拡大は景気刺激策だが財政赤字の悪化も心配だ。来年前半には連邦債務の上限を定める法律の改定を行う必要がある。来年度予算の準備も始まる。議会との関係を含め、どのような財政刺激策が展開されるのか興味深い。

 貿易では、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への反対だけでなく、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しも明言した。NAFTA見直しの現実性のほどは怪しいが、メキシコなどに生産拠点を持つ日本企業にも影響が出る可能性がある。

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