【トランプ氏勝利】日本の通商戦略崖っぷち TPP漂流視野 安倍政権の構想振り出し

 米大統領選で環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの離脱を宣言したドナルド・トランプ氏が勝利し、日本の通商戦略は崖っぷちに追い込まれた。政府は米国が新大統領就任までの「レームダック(死に体)議会」で協定案を批准することに最後の望みをつなぐものの、失敗すれば巨大自由貿易協定(メガFTA)を日本の成長につなげる安倍晋三政権の構想は振り出しに戻る。

 「TPPを呼び掛けたオバマ大統領自身が任期中に手続きを完了させると言っている」。世耕弘成経済産業相は、あくまで米現政権のTPP批准に向けた努力を見守る考えを示す。

 ただ、レームダック議会は来年1月3日の新議会開会までの短期決戦だ。米通商代表部(USTR)は選挙前から有力議員の説得に本腰を入れてきたが、議会内の根強い反対を乗り越えられる保証はない。トランプ氏は米国第一主義を掲げFTAを見直す考えを示しており、TPPは「就任初日(来年1月20日)に離脱を発表する」と明言。TPPの発効には域内国内総生産(GDP)の85%以上の国が批准する必要があるため、約60%を占める米国の承認がなければ“塩漬け”になる。

 TPPは世界全体のGDPの約4割を占める巨大経済圏だ。政府は域内の発展を取り込むことで人口減少に悩む日本の経済成長を図る思惑だっただけに、TPPの漂流を視野に入れた通商戦略の見直しを迫られる。

 一方、TPPの見通しが立たなくなれば、日中韓などが交渉するもう一つのメガFTA、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の重要性が増す。

 経産省幹部は「TPPを主導した米国への信頼感が低下し、アジア太平洋地域で中国の存在感が一層強まる」と指摘。日本は覇権主義を強める中国主導の経済圏への対応も迫られそうだ。(田辺裕晶)