海外に比べ日本の文化財は入場料値上げの余地がある-。こんな財務省の提案が波紋を広げている。文化財関連予算の有効活用のため、文化財の魅力向上に自己負担で取り組む寺社などを優先して支援したい考えで、魅力が高まれば値上げもできる、というのが財務省の理屈だ。名古屋城(名古屋市)など相次ぐ値上げの動きが広がる可能性がある中、「観光客が減る」と危惧する声も出ている。(中村智隆)
財務省は4月の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で、文化財の所有者が自前で魅力を向上させる取り組みを後押しする考えを表明。訪日客向けの案内板などを整備した場合、国が優先して修理事業を支援する制度の導入を検討する。
同時に、文化財を持つ寺社などの入場料の値上げを促すような考えを提示した。フランスのベルサイユ宮殿の入場料が約2千円なのに対し二条城(京都市)は600円と差があり、財務省の担当者は「日本でも、もう少し払っても見たいという人がいるのではないか」と話す。
魅力を高めれば入場料が上げられ、収入増につながって所有者の自主的な取り組みを促せる-。これが財務省の意図とみられる。
すでに、文化財の値上げの動きは相次いでいる。
名古屋城では平成32年を目指す木造天守閣復元構想があり、事業費は500億円程度の見通し。これを賄うのに名古屋市外からの入場料を1千円に倍増させる案が浮上しており、同市の担当者は「木造で魅力は高まる。適正な料金体系としたい」と話す。
文化財は修復方法が限られることなどから所有者の維持管理費が大きい。法隆寺(奈良県斑鳩町)は昨年1月、維持費を捻出するため22年ぶりに拝観料を値上げし、大人料金を1・5倍の1500円に引き上げるなどした。清水寺(京都市)も今年1月から値上げに踏み切った。
しかし、訪日外国人は増えているものの、国内の修学旅行生は少子化のため減少傾向にある。ある城郭関係者は「維持費はかさむが、客足を考えると値上げしにくい」と板挟みの状況を吐露した。文化庁の担当者も「来場者が減るかもしれない」と過度な値上げに慎重で、財務省の“後押し”を警戒する。