中国は防空識別圏の設定で、関係国を巻き込んだ軋轢(あつれき)を起こしている。今後の尖閣空域をめぐる確執から目が離せなくなったが、周辺海域をめぐる確執もまた厳しさを増している。
その背景としてアジアにおける米中パワーバランスが重要になるが、10月初旬に東南アジア諸国連合(ASEAN)を舞台に開かれた一連の首脳外交で、大きな変化が見られた。習近平国家主席が経済外交を積極展開したのに対し、オバマ米大統領は国内問題から会議を欠席、フィリピンなど対米依存を強める関係国の憂慮を強めさせた。
実際、南シナ海の領海問題や海洋の安全保障をめぐって米中両国はこれまで、対立と協調を反復してきた。ASEAN加盟国と日中韓米露などが加わった東アジア首脳会議(EAS)で、ケリー米国務長官は「航行の自由は太平洋の安全保障に必要だ」と中国の海洋進出を牽制(けんせい)したが、中国はASEANとの協調関係を誇示し米国の介入を拒否した。
オバマ大統領はEASに2011年から出席して「法の支配や紛争の平和的解決、航行の自由を推進し、米国がこの地域の安全と安定を擁護する」と主張してきたが、その影響力を今回は発揮できなかったことになる。
中国はさらに東アジア地域包括的経済連携(RCEP)による経済融合を提案するなど、ASEANに対する融和姿勢を示していた。このように中国外交は、受け身な「中国脅威論」の打ち消しから、ASEAN諸国に攻勢に転じた印象さえ抱かせるものがあった。