2025年の香港の未来像を予測して描いた自主制作映画「十年」が注目を集めている。中国共産党の強まる一方の管理下で暗黒の時代を迎えた香港社会をテーマにした5話構成のオムニバス映画で、昨年12月17日に封切られた時、上映する映画館はたった1館だったが、口コミで評判が広がり、またたく間に香港中で上映されるようになった。香港での興行収入は、世界的なヒットを記録しているSF映画「スター・ウォーズ フォースの覚醒」を上回り、香港のアカデミー賞といわれる「香港電影金像奨」で最優秀作品賞にもノミネートされている。一方、中国国営メディアは「思考のウイルス」だと酷評した。
焼身抗議や暗殺…リアルに
「十年」は、いずれも30代の香港の若手映画監督5人が共作したもので、上映時間は104分。制作費は短編5話の合計で50万香港ドル(約730万円)にすぎなかったが、2月の上映最終日までの興行収入は600万香港ドル(約8800万円)を超えた。まだ見ていない香港市民から再上映を望む声が強まり、4月1日から香港全土でまた上映される予定だ。香港電影金像奨(4月3日発表・授賞式)でも最優秀作品賞の有力候補になっている。
構成する5話では、(1)香港政庁前で焼身抗議する女性(2)地元の政治家を暗殺して支配の拡大を図る政府(3)禁書を扱ったとして書店を攻撃する「少年親衛隊」(4)香港の広東語を話す住民を排斥する規制が導入されて職を失ったタクシー運転手(5)「本土(香港)産」と銘打った卵を販売したために狂信的な共産党支持者に襲撃される食料品店主-が描かれている。いずれもフィクションだが、現実と驚くほど重なり、リアリティーがあると評判だ。