W杯に投じられた公費は110億ドル(約1兆1000億円)に上るが、空港や会場への交通網の整備は完了していない。宿不足も深刻で、野宿を決めた観戦客も多い。殺人発生率の高い世界50都市にブラジルの15都市が入り、うちW杯開催都市が8都市もある。観戦客は強盗被害などの危険にさらされる。
「五輪なんて無理」
公立病院は医師や設備が足りず、予約は数カ月待ち。公立学校も不足しており、2部制が当たり前で「W杯の代わりに医療、教育を」という国民の声は強い。
各大陸の王者が対戦する昨年のコンフェデ杯期間中は、W杯準備に費やす巨額の公費を福祉に回すよう求めるデモが各地で激化。一時、参加者は100万人以上に膨らんだ。しかしブラジルが勝ち進むと応援ムードが広がってデモは縮小、ブラジルの優勝で沈静化した。W杯でもブラジルが勝ち続けるかどうかが社会情勢を左右しそうだ。
「途中敗退したら、不満と怒りの矛先が政府に向かうのは間違いない」。40年前、極貧の北東部から職を求めスラム街に移った塗装工の男性(56)が語る。「デモが大荒れになり、スラムでは暴動が起きる。そうなったら五輪なんて絶対無理だ」と顔をしかめた。(共同/SANKEI EXPRESS)