今季の成績で跳ね上がる来季の年俸との差し引きを考えれば、楽天球団も手放す決断を下すしかなくなるのではないか。冷たい言い方かもしれないが、球団にとって最大の商品は選手である。高く売れる時を見極めることも必要なのだ。莫大(ばくだい)な移籍料は、今後の楽天を強くする基盤となる。
だが、田中以上のエースが球団に、いや日本球界に生まれるかどうかは難しい。田中は球が速く、変化球が切れ、頭もクレバーだ。それだけではない。例えば優勝を決めた9月26日夜。西武にリードを許していた場面で彼はブルペンに向かった。ひたすら、ゆっくりと。
「僕がブルペンに向かう姿を見て皆が何かを感じ取ってくれれば」と思っての足取りだったのだという。その姿が、アンドリュー・ジョーンズの満塁一掃逆転タイムリーを生んだ。それほど彼は、チームに影響力を与えるエースだったのだ。
来季以降、田中を生で見ることは難しくなるかもしれない。そう思えば思うほど、この秋のポストシーズンが貴重な舞台に思えてくる。