5月31日は世界禁煙デーです。日本はいまだに喫煙者数が約2000万人に上る喫煙大国。喫煙の害は今や医学的に明らかなのに、そのことを理解できない喫煙者はまだまだ多いようです。
ある日、70代前半の男性が私のクリニックを受診されました。ほかの医院で高血圧の治療を受けていたのですが、血糖値が高くなったと言われ診察を受けに来たそうです。血液検査をすると確かに糖尿病でしたが、喫煙していることも気になりました。たばこはがんも動脈硬化も起こすからやめるべきとお話ししたところ、「前の医者にはそんなこと言われなかった」と意外そうにしていました。
世界ではこの約半世紀、経済発展を遂げた国を中心に禁煙が進んできましたが、アジアの国々では喫煙人口が多いままです。そんなアジアでの喫煙と死亡率の関係を調べた研究結果が、今年3月に米国の医学雑誌に発表されました。
喫煙率を年代別に見ると、日本や韓国では1920年代生まれの人で最も高く、その後の世代では低下していますが、一方、中国では1950年以降に生まれた世代で最も高くなっており、近年も上昇が続いています。
アジア全体では喫煙開始年齢が若年化し、一人当たりの喫煙本数も増えています。それもあってでしょう、世代が下がるごとに死亡率が上昇しています。喫煙者の世代ごとの全死亡率は1920年以前の生まれで非喫煙者の1・26倍、肺がんの死亡率は3・38倍ですが、1930年以降の生まれでは1・70倍と4・80倍でした。早くに禁煙するとそれだけ死亡率も低下しており、特に40歳より前に禁煙すると死亡率の上昇はほとんど見られません。
喫煙者を減らすにはたばこの値段を上げるなど行政が行うべきこともありますが、やはり個人がたばこのリスクをしっかり認識することが大切。私のクリニックを受診した男性患者さんはそれ以来、禁煙し、糖尿病治療にも真剣に取り組んでいます。「自分の体を良くしたくて受診したのだから」というのが理由だそうです。(しもじま内科クリニック院長 下島和弥)