長野県の南西部に位置する木曽郡の開田高原辺りは、平安時代の終わりころから、日本の本州に最後まで残った在来種、木曽馬が飼育されてきた。その性格たるや、山間部の寒冷な自然環境で育ってきたためなのか、人に大切に育てられてきたためなのか、いじらしいほど「温順」なのだとされる。ここには、40頭ほどの木曽馬が保護・育成されていて、訪れれば誰でも気軽に触れ合える。
「温順」なのだと聞いてはいたが、目の当たりにするといささかひるむ。中川剛場長がかけてくれた「大丈夫ですよ」との言葉に促され、額をなでてみた。くすぐったそうに顔を左右に振り、次に上下に動かすではないか。「来たのかい。よろしく」と応じているかのようだ。
見覚えのあるサラブレッドに比べると一回りか二回り小さいように思われた。実際、サラブレッドの体高は平均160センチで、木曽馬のそれは同133センチなのだそうだ。おなかがぷっくりと膨れているのは、粗食に耐えられる大きな盲腸があるため、とのこと。胴は長く足が短い見てくれは愛嬌(あいきょう)があるし、かわしらしい。
かつて荷馬としての役割を果たしていたといい、中川さんに言わせれば、「小さくても力持ち」の馬だということになる。さもありなん、という思いがする。
額のほぼ真ん中に傷があるのかと気をもんだ。だが、いらぬ勘繰りだった。中川さんのお話だと、「つむじ」なのだという。それのある箇所や形が馬によって異なっていて、ほかの馬に注意を払うと、なるほど、たてがみに隠れていたり、額の右にあったり左にあったりしていた。
たてがみも直毛だったり、巻き毛だったりしている。質感もパサパサとか油っぽいとか、これまた馬によって違っているのだ。