なぜ新幹線に美術館を合体させるという、世界でも類を見ないある意味奇抜な発想が生まれたのかといえば、新潟エリアではもともと3年に1度世界最大規模のアートイベント「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」が開催されていて、新潟各地とアートが親和する下地ができあがっていたそうだ。そこから新潟が誇る美しい風景を車窓から眺めつつ、さらに現代アートを鑑賞するという新しいコンテンツ「移動型モダンアートミュージアム」が企画された。この“移動する車窓を眺めながら”というところが“現美”の特徴で、つまりじっくり美術鑑賞をするだけなら窓をすべてふさいでしまえばよいのだが、あえて窓を開けておくことで差し込む光がくるくる変わり、それがアートにいろいろな表情を与えている。
15号車に入った瞬間、ぱあっと明るい空間に惹き込まれた。“現美”は観光列車なので休日に新潟旅行と組み合わせて乗車する人も多いはずだ。そんなレジャーを楽しむ気分をさらに盛り上げる華やかな演出。振動する車内という環境を逆手に取り、立体的な花びらは固定せず、車体のリズムに合わせてゆらゆら揺れている。前回お伝えしたように(前回の記事へのリンクをお願いできますか?)、車体のラッピングは写真家で映画監督の蜷川実花さんの作品だが、その世界観ともマッチしているような。これは絶対に感性豊かな若い女性の作品に違いないと思ったら、この作品を手がけたのは1983年生まれの荒神明香(こうじん・はるか)さん。日本のほか台湾やブラジルでも展覧会を開催していて、現代芸術活動チーム「目」のメンバーとしても活躍しているそうだ。