■知られざる医療大崩壊の実態
ずっと離れて暮らしていた父が、私が米国から帰国して親子の距離を縮め出した矢先に糖尿病を悪化させ人工透析となった。そして早すぎる最期に残された強烈なメッセージが、アメリカばかりみていた私の、祖国への思いを大きく変えることになる。
これまでアメリカという大国を通し、金融、食、農業、自治体、教育など、あらゆるものを商品化する「1%の超・富裕層」の国家解体ゲームについて追い続けてきた。
今回の『沈みゆく大国 アメリカ』で描いたのは、日本では正確に報じられることがない、医療大崩壊の実態だ。マイケル・ムーア監督が映画「シッコ」で告発した、先進国とは思えない驚愕(きょうがく)のエピソード-傷口を自分で縫う患者等々-を覚えているだろうか?
医療もまた、市場に並ぶ「商品」の一つであるアメリカ。だからこそ、次々に医療破産する国民や無保険者の救済を掲げてオバマ大統領が導入した米国版皆保険制度「オバマケア」に、多くの国民は最後の希望を賭けたのだ。だが2014年の施行後に、彼らは知ることになる。リーマン・ショックで露呈したマネーゲームが、まだ終わっていなかったことに。「がん治療薬は自己負担、安楽死薬なら保険適用」「1粒10万円の薬」「手厚く治療すると罰金、やらずに死ねば遺族から訴訟」「自殺率1位は医者」…