【視点】産経新聞論説委員・長辻象平
人工知能(AI)への注目が熱気を帯びている。だが、AIが孕(はら)むリスクの本質に迫るビジョンの提示は、まだ少ない。AIに関する日々のニュースの多くは、少子高齢化への対応など、バラ色の将来を描いてみせるものだ。そうなればよいのだが、30年後に待ち構えているのは、世界規模での大量失業時代であろう。
AIの能力は指数関数的な伸びを示すのが特徴だ。Xの2乗ではなく、2のX乗で増える。Xが3のとき前者は9、後者は8だが、Xが30になると前者が900であるのに対して後者は10億を超えるのだ。
前者のような加速度的増加なら対応可能だが、指数関数的な増加は、人間の体験をベースにした予測を無力にする。
米IT企業グーグル系列のAIが、世界最強と目される囲碁のプロ棋士を打ち負かしたのは3月のことだった。予想より10年も早く起きてしまった逆転劇だが、これもAIの指数関数的な能力アップのなせる業なのだ。人間の側が危うさに気付き始めたときには、既に手遅れになっている。これがAIの脅威の特徴だ。