■建材会社が問題解決
鉄道では、年間5000件ものシカとの衝突件数が発生しています。旅客や貨物の安全運行の妨げになり、鉄道会社にとって大きな悩みでした。近隣住民にとっても精神的負担になり、社会問題化していました。そんな中、建材総合メーカーが問題解決につながる製品を開発し、注目されています。
◆なぜ線路に入るのか
衝突増加の背景として、(1)狩猟者が高齢化で減少している上、銃刀法改正で狩猟免許の更新手続きが煩雑になり担い手が減少(2)シカの頭数が増加(3)里山が減り、シカが餌を求めて山を下りてくる-ことなどが挙げられます。
鉄道会社にとって山間部を走る鉄道とシカの衝突は、列車遅延や部品損傷、死骸処理などで経済的な損失が大きい。対策としてこれまで、シカが嫌うライオンなどの糞尿(ふんにょう)を薄めた水を線路上にまいたり、線路沿いに背の高い柵を設置したりするなど、さまざまな防止策に取り組みましたが、決め手がなく根本的な衝突防止にはつながりませんでした。
鉄道会社の窮状を知り、問題解決につながる製品開発に取り組んだのが日鉄住金建材です。同社は鉄鋼建材事業を中核にしていますが、鉄道用の防風柵や防音壁の製造・販売も手掛けており、2011年にシカ被害対策の製品開発プロジェクトをスタートさせました。
プロジェクトの中心を担ったのは、同社で新ビジネスの展開を担当する開発企画部開発企画グループ長の梶村典彦氏と同部員の見城映氏です。これまで道路などインフラ関係の顧客との取引が多いことから、そうした分野の市場調査を始めたところ列車とシカの衝突件数が急増しているという問題に着目しました。それにしても、なぜ線路で衝突が起きるのか。その実態調査はこれまで誰も行っていませんでした。