レストランや宴会などの事業を手掛ける銀座クルーズとIT企業のoVice(オヴィス)社は16日、オンラインでシェフやスタッフから説明を受けながら高級料理に舌鼓を打てる「バーチャル空間レストラン」をオープンする。自宅に配達された料理を皿に盛り付けたら、パソコンのカメラを通してシェフから挨拶や料理の説明を受けつつ順番に料理を楽しむことができる。
シェフの挨拶もオンラインで
オマール海老と帆立、北海道白老牛(しらおいぎゅう)、鰻、キャビア…。高級食材をふんだんに使った3万円のコースのテーマは「モダンフレンチとフランスワインのマリアージュ(良好な組み合わせ)」。12種類の料理を、スパークリングワインを含む6種類のワインとともに堪能する。
本当の強みはレストランの空気感を再現したところにある。バーチャル空間レストランの基本的な仕組みはこうだ。12種類の料理のうち3種類は電子レンジや湯せんで温めてから食べるが、手間のかかる調理はしなくていいという。サーブ(給仕)に相当する仕事の担当者が、参加者の手もとの皿や食べ終わった様子をチェックして次の料理を勧める流れになる。
遠隔地の人とオンラインで会食する点で従来の“ZOOM飲み”に似ているが、バーチャル空間レストランではoVice社のコミュニケーションツール「oVice」を使う。
oViceはもともと、インターネット上にオフィスやイベント会場を作ってユーザーの交流を促すツール。バーチャル空間で自分のアバター(分身)を動かすことが可能で、アバター同士が近くにいると声が大きく、少し離れていると小さく聞こえるという特徴を持っている。これを使うことで本当のレストランのような賑々しい空気の中でオンライン会食ができるというわけだ。隣の席の友人らの会話にまざって盛り上がるなどの使い方もある。
また、参加者のアバターの位置はバーチャル空間の見取り図で把握できるので、相手に話しかけるタイミングをつかみやすい。バーチャル空間の丸テーブルに会社の同期のアバターが集まっているので自分も会話に入ってみよう、といった使い方もできるだろう。
需要と予算でアレンジも
新しい形のオンライン会食が生まれた背景には、やはり新型コロナウイルス禍の影響があった。銀座クルーズは「BtoB」の宴会を主力としていたが、38億円(2020年3月期)の売り上げの65%を占めていた宴会需要の9割以上が消滅。一部の店舗では休業を余儀なくされた。そこで、オンラインでも店舗のような「空間づくり」を行いながら、これまでと同じような宴会の体験をしてもらいたいと考えてoViceの活用に踏み切ったという。
今後は結婚式や周年パーティーなどの需要や予算に応じてメニューを開発していく予定だ。システム上は同じバーチャル空間に500人まで入室できるが、多すぎる人数に対してサーブする側の対応が間に合わなくなるため、oVice社の広報担当者は「現実的には200人が上限ではないか」とみている。