大企業が資本金を減らす「減資」の手続きを取り、税制上の「中小企業」に衣替えした事例が、令和2年度は約1千社に及んだことが10日、分かった。財務悪化のイメージダウンは避けられないが、資本金が1億円以下になると税負担が軽くなる。ただ、本来は経営体力に乏しい企業のための優遇措置を大企業が受けることには批判も根強い。資本金の多寡で負担が変わる税制の見直しにつながる可能性もある。
東京商工リサーチによると、2年度に資本金を1億円超から1億円以下に減らした企業は997社と、前年度の1・4倍に急増。飲食業では「かっぱ寿司」を展開するカッパ・クリエイトや居酒屋「はなの舞」を運営するチムニー、旅行関連ではスカイマークやJTBが名を連ねる。今年度に入っても減資企業は後を絶たない。
減資企業の最終損益の内訳をみると、黒字企業は元年度の54・9%から2年度は43・9%に減ったのに対し、赤字企業は27・9%から38・6%へと増えた。新型コロナウイルス禍で痛手を負った企業が減資に動いたことをうかがわせる。
資本金が1億円以下になると、税負担軽減のメリットがある。法人税率の引き下げが期待できるほか、法人事業税については赤字でも収める必要がある外形標準課税が免除される。
資本金は、企業の“格”を示す指標とされてきた。しかし、日本総合研究所の小谷和成主席研究員は「資本金の額が大きいほど『安心な企業』と見なす資本金信仰は薄れてきた」と指摘する。減資しても、銀行などが融資の際に重視する純資産自体が減るわけではないというのがその理由だ。
とはいえ、中小企業の経営を支援するための措置を大企業が利用することには厳しい目が向けられてきた。平成27年には、シャープが減資を試みたものの、批判を受けて1億円への減資を行わなかった。
与党の28年度税制改正大綱には、中小企業への課税を実態に即して見直すことが盛り込まれたが、実現には至っていない。
大和総研の斎藤航研究員は「中小企業の支援や税の公平性という観点から、従業員数などの基準も活用し、企業規模を把握することが望ましい」と語る。コロナ禍のもとでの減資増加をきっかけに、中小企業の課税をめぐる議論が再び活発化する可能性がある。
(米沢文)