金融

電気、ガソリン…「悪い物価上昇」で景気に悪影響も

 国際的な商品価格の上昇が、新型コロナウイルス禍からの持ち直しが遅れた日本経済に「悪い物価上昇」としてダメージを与え始めている。いち早く回復が進む米国や中国などの需要増大で供給不足が進んだことが主な原因だ。なかでも原油価格の上昇は日常生活に欠かせない電気料金やガソリン代などの値上がりを通じて消費者心理を抑制し、コロナ禍からの脱出を遅らせる可能性が指摘されている。(田辺裕晶)

 「海外では経済の急回復の結果として生じる『良い物価上昇』も、ワクチン接種の遅れなどで回復が遅れた日本には生活を圧迫する『悪い物価上昇』になる」

 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、こう指摘する。

 大手電力10社は7月の家庭向け電気料金を全社で引き上げると発表した。火力発電に使う燃料の平均輸入価格が上昇したためで、10社全て値上げするのは4カ月連続だ。東京電力では2月から6カ月連続となり、値上げ幅は計656円。家計にじわりと圧力がかる。

 背景にあるのが原油価格の上昇だ。先週3日の東京商品取引所では、中東産原油の先物が株価終値に相当する指標価格の清算値で1キロリットル当たり4万6160円を付けた。コロナ禍前の令和元年5月21日以来の高値となり、約2年ぶりに節目の4万6千円を突破した。

 米中などの不況脱出で世界的なエネルギー消費量が増える見込みに加え、石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどの「OPECプラス」が1日の会合で増産ペースの加速を見送り、需給が引き締まるとの予測が価格を押し上げた。

 原油価格上昇は電気料金やガソリン代といったエネルギー価格だけでなく、プラスチックなど石油化学製品の価格も押し上げる。海外経済の回復に伴う需給の逼迫(ひっぱく)は半導体や大豆などさまざまな商品価格も引き上げ、家計負担につながる。コロナ禍でデフレ傾向が続いた消費者物価上昇率は、輸入価格の上昇で18日発表される5月の指数(生鮮食品除く)で1年2カ月ぶりにプラス転換の可能性がある。

 ただ、企業の今夏のボーナスは昨年冬に続く前年割れが見込まれるなど、所得環境は依然厳しい。木内氏は「生活費が上り続けるとの見方が広がれば家計は一層防衛的になる」として、景気低迷とインフレが同時進行する「スタグフレーション」を懸念する。ワクチン接種の進展で徐々に光明が見え始めた国内経済だが、物価上昇という伏兵が回復を妨げる恐れがある。

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