大阪府と大阪市は6日、誘致を進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の運営事業者を追加公募したところ、新たな応募はなかったと発表した。公募にはこれまで、米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同事業体1組が応募しており、事業者に決まる公算が大きい。
大阪市の松井一郎市長は6日、市役所で記者団に「MGMは非常に経営が苦しい中でも大阪IRを続ける意思表示をしている。パートナーとして誠意を持って対応できている」と評価した。府市は今後、MGM側からの事業内容の提案書を審査し、9月ごろに事業者として決める見通し。
府市は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2月に実施方針案を修正し開業時の展示施設の面積などを変更した。そのため、新たに参入希望の運営事業者がいないかどうか公募していた。
大阪IRの追加事業者に応募がなかったことは、現在手を挙げているMGMとオリックスの連合に対抗することは困難と他社が判断したことが背景にあるとみられる。今後の焦点は、新型コロナの感染拡大でIR産業全体が打撃を受けるなか、MGM連合がどのような事業提案を行うかに移る。
「今さらMGM連合に対抗しようとする企業などないだろう」
関西財界では、大阪府市が2月に事業者の追加募集を発表して以降も、このような見方が大勢を占めていた。背景には、オリックスが持つ関西の事業基盤の強さがある。
オリックスは関西国際、大阪(伊丹)、神戸の3空港に加え、大阪市内で球場や劇場の運営に携わる。JR大阪駅北側の再開発地域「うめきた2期」の開発企業群にも名を連ねており、大阪でIRが実現した際には、それらの施設との連携も期待される。
一方でMGMも、進出先を大阪に絞る「大阪オンリー」戦略を掲げ、地元経済界との関係づくりも積極的に進める。横浜市がIR誘致を表明し、他のIR事業者が大阪撤退を決めた後も、大阪への進出意向を一貫して維持してきた。
大阪府市は7月ごろに事業提案の受け付けを終了し、9月にも事業者を決定したい考えで、今後はMGM連合がどのような事業提案を行うかに焦点が移る。
大阪府市は2月、コロナ禍による事業者の経営状態の悪化などを受け、新たなIRの整備方針案を公表。開業時期を当初2025年大阪・関西万博前の全面開業としていたのを20年代後半の部分開業にまで後退させたほか、IRに含まれる国際展示場施設の開業時面積を当初計画の10万平方メートルから2万平方メートルに縮小するなど、参入のハードルを大幅に下げた。MGM連合の事業計画も、新たな方針を踏まえ、段階的な整備を目指す可能性が高い。
ただIR実施法では、カジノを含むIRの整備を進める前提として「国際競争力の高い魅力ある滞在型観光」の実現を目指すことが定められている。コロナ禍後は、海外や今後設置が見込まれる他の国内IRとも顧客誘致をめぐる競争が激化すると予想されるなか、利用者をひきつける魅力的な施設が実現しなければ、実施法の理念そのものがほごにされかねない。(黒川信雄)