新型コロナウイルスの影響で、飲料以外の商品を扱う一風変わった自動販売機(自販機)や無人販売機が脚光を浴びている。テークアウトや宅配と比べ、予約の手間などがなく、人と会わずに購入できることが強み。感染再拡大による時短営業のあおりで客足が遠のいた飲食店の中には、新たな販売方法として販売機に活路を見いだすところもある。(前原彩希)
売り上げ回復
「販売機がなければ、店は持ちこたえられなかった」。大阪府大阪狭山市の焼き鳥店「炭火焼鳥ときわや」店長の平沢政志さん(29)はこう話す。
同店は1月5日、せせりの焼き鳥を購入できる無人販売機を店頭に設置。すると、居酒屋に抵抗があるというお年寄りや家族連れ、仕事帰りの人からたちまち好評を博し、売り上げに貢献している。
きっかけは新型コロナだった。店の売り上げは昨年4、5月、例年の半分以下に激減。感染リスクの低い持ち帰り方法がないか考えていたとき、宮城県石巻市の焼き鳥店が販売機を使っているのを知り、導入を決意した。
同9月、現地を訪れ直接ノウハウを教えてもらった上で、大阪市の工務店に製作を依頼。完成した販売機は、上段にせせりの塩焼き、下段にせせりのタレ焼きが4本ずつ袋に入って並ぶ。1袋500円で、代金を投入口に入れて自分で商品を取り出し、ポリ袋に入れて持ち帰る仕組みだ。中は保温機により50度に保たれ温かい。
販売機は午後1時から午後9時まで購入が可能で、平日は約60袋、休日は100袋以上売れる日もある。「安心して購入できる。落ち着いたら店にも来るね、と喜んでもらっている」と平沢さん。売り上げも例年の6割近くまで回復し、手応えを感じている。
好きなときに購入
同様に昨年8月から自販機でハーブを販売しているのが岡山市のハーブ生産会社「千」だ。これまで飲食店約10店舗にハーブを卸していたが、昨春は感染拡大の影響で注文がほぼなくなった。
このため、家庭用として気軽に購入してもらおうと市中心部に自販機を設置。現在は30~40種類のハーブを育て、バジルやパセリなど1袋300~千円で販売。月に4万~5万円ほど売り上げる。担当者は「人件費もかからないし、好きな時間に買ってもらえる」とメリットを強調する。
SNSで話題に
会員制交流サイト(SNS)で話題を呼んでいる自販機もある。
奈良市の近鉄奈良駅近くの東向商店街に昨年12月、お目見えしたマカロンの自販機だ。ピンクや白、緑色のカラフルなマカロンが透明の筒に入っており、2個入り500円から販売されている。
設置したのはケーキやマカロンの製造販売を手がける「パティスリーこずえ」(奈良市)。新型コロナで併設するカフェの売り上げも不調となり、「目を引くものを」と自販機での販売を決めた。写真を撮り、SNSのインスタグラムに投稿する人も多く、「思っている以上に反響があり、うれしい」とパティシエの隅山絢子さん(37)は喜ぶ。
奈良県御所市のハンバーガーショップ「ほりのバーガー」でも昨年末から自販機を設置している。
ハンバーガーは真空パックで冷蔵された状態で1個500円から販売。自販機の横にある電子レンジで温めれば、すぐに食べられる。
オーナーの堀野樹里さん(42)は「対面しないで購入してもらえ、今一番ニーズに合っている。店舗以外の収入の柱としたい」と意気込んでいる。
自動販売機は自宅や職場の近くで、人と対面せずに商品を購入できるのが魅力だ。一般社団法人「日本自動販売システム機械工業会」(東京都)によると、キャッシュレスで購入できる自販機もあり、担当者は「買う側も売る側も安全だ」と衛生面でのメリットを強調する。
国内では飲料の自販機が全国に広がっているが、近年はコンビニエンスストアの台頭により、苦戦を強いられている。同会によると、令和元年12月末の飲料自販機の設置台数は約240万台で、前年に比べて約5万台減少したという。
だが、コロナ禍で、弁当やマスクなど飲料以外の販売ツールとして広まる可能性も出てきた。同会の担当者は「コロナにより自販機の魅力が見直されている。新たなビジネスチャンスになればうれしい」と話した。