【変革 コロナ危機】
「増税前の駆け込み需要が、春先からずっと続いているような感覚だ」。関東地方の梅雨明けが発表された直後の8月上旬、炎天下の東京都内でヤマト運輸の男性配達員はつぶやいた。
消費税率が引き上げられる前に目当ての品を買う駆け込み需要では、宅配便の荷物も急増するが、これまでの経験ではおおむね半月でピークは過ぎていた。しかし、新型コロナウイルスでは“巣ごもり消費”の勢いが衰えないために、「終わりの見えない繁忙期」(男性配達員)が続いている。コロナの感染や熱中症のリスクと隣り合わせの中、大切な荷物を確実に届けようと奮闘が続く。
宅配業界では、コロナ以前からインターネット通販の増加や人手不足で「宅配クライシス(危機)」と呼ばれる状況が起こっていた。そこへ感染拡大が追い打ちをかける形となり、ヤマト全体では4~6月の宅配便の個数が前年同月比で約1~2割増加。5月の「母の日」などには最大5割増えた営業所もあった。
政府の緊急事態宣言が発令されていた4~5月は外出自粛による高い在宅率のおかげで、再配達が少なく各社は何とか対応した。だが6月以降は出社や外出が戻って在宅率が再び下がり、気が抜けない状況だ。そんな中、新たな取り組みも加速し始めている。
「受け取りを気にするストレスが一切なくなった」。東京都内の会社員、斉藤秀美さん(27)は、ヤマトが6月下旬から始めた新サービス「EAZY(イージー)」を既に何度も使っている。ネット衣料品通販大手「ゾゾタウン」などの商品受け取りが対象で、利用者はスマートフォンを使い、玄関前や自転車かごなどに荷物を届けておいてもらう「置き配」に到着5分前まで変更できる。
ヤマトは当初秋から開始する予定だったが、感染予防で配達員と対面せずに商品を受け取りたいとの要望もあり、前倒しで実施した。今後も対象となる通販事業者を広げて利便性を向上させる。
佐川急便では、家庭の電力のスマートメーターと連動させたシステムの実証実験を9月から神奈川県横須賀市で始める。電力使用状況のデータから在宅時間を推測して、ドライバーに不在先を避けた効率的な配送ルートを示すことができる。本村正秀社長も「画期的な解決策だ」と強調。新たなネット通販時代の幕開けに向け、改革のスピードを上げる考えだ。
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新型コロナの感染拡大の中、企業や地域の手探りが続いている。変革の現場を取材した。