企業経営の最高の使命と責任は、五方良しの経営の実践、とりわけ社員とその家族の命と生活を守ることである。リストラをされて、幸せを実感できる社員や家族などいないし、路頭に迷って幸せを実感する社員や家族もいないからである。それゆえ、企業経営において決してやってはいけない最たることが人へのリストラなのである。(経営学者・元法政大学大学院教授人を大切にする経営学会会長 坂本光司)
筆者は、人へのリストラは「企業経営という名を借りた殺人行為である」とまで言うことにしている。しかしながら、今回の新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、また再びリストラの動きが加速している。しかも「赤字リストラ」どころか、将来のためなどと言って「黒字リストラ」までも平然と行う企業も増加傾向にある。
より腹立たしいのは、リストラを行う経営者は平然と居座るという身の処し方である。こうした企業を調べてみると、役員報酬は5000万円以上どころか数億円以上という企業も少なからずある。
リストラをせざるを得ない大きな問題を、社員が起こすことなどありえない。その大半は、経営者の決断の失敗で発生するのである。つまり、経営者が「やってはいけないことをやってしまう」とか「やるべきことをやらない」ことこそが、根本原因・最大原因なのである。
その失敗を何ら罪もない社員に擦り付けるような経営が、社員はもとより社会に認められるはずがないのである。
リストラの最大目的が、総人件費の抑制であることを考えれば、万が一それが必要ならば、社員の頭数を減らすという発想ではなく、全体で、その分の人件費を減らすという発想が必要なのである。
もっとはっきり言えば、まずは社長をはじめとした役員の報酬を大幅に下げ、それでも困難ならば、次は部課長をはじめとした幹部社員の給料を下げることが正しいのである。例えば、年収5000万円の役員の報酬を、その年は500万円にすれば、9人の社員の雇用が守られるのである。こうした対処は、企業の原点は家族であることを考えれば当たり前のことである。
これまた、筆者がよく言う例えであるが、5人家族で3人分の食べ物しかない状態が1カ月も余儀なくされた場合の対処の仕方である。その家族の両親が、自分たちのおなかを最初に満たすことなどするはずがないのである。それどころか、「もう食べたから」とウソを言い続けて死んでいくはずである。
筆者がよく言う「社員であった頃のことを忘れてしまった人が社長や役員になると、ろくな社長・役員にならない」とか「中小企業であった頃のことを忘れた企業が大企業になると、ろくな大企業にならない」という意味が、このことである。
【会社概要】アタックスグループ
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