人口減少で厳しい地方の中小鉄道の経営を新型コロナウイルスが直撃している。利用者が大きく減る中、香川県の高松琴平電気鉄道の真鍋康正社長(43)は「民間企業が単独で担う事業なのか」と話し、運行維持に向けた負担の在り方を社会全体で議論する必要があると問題提起する。
同鉄道の4、5月の利用者数は前年の約半数に落ち込んだ。感染拡大が一段落した今でもイベントの中止や出控えなどで客足は以前の水準には戻っていない。2019年度に約27億円だった鉄道運輸収入は20年度、10億円以上減ると見込む。
苦しいのは同社だけではない。交通政策の有識者らでつくる「日本モビリティ・マネジメント会議」は、第三セクターを含む中小鉄道の20年度の減収額は全国で計1100億円に達すると試算。現状が続くとバスやタクシー、船を含む交通事業者の半数が8月までに倒産の危機に陥るとしている。
政府は感染対策に万全を期して事業を継続するよう交通各社に要請。高松琴平電気鉄道は本数を減らして運行を続けたが、感染を心配する市民から連日のように「乗車密度を下げてほしい」との要望が届いたり、終電を早めたことで飲食店から抗議を受けたりした。
鉄道は乗客が1人でも100人でも運行コストはほぼ変わらず、利用者が一定数いないと採算を維持できない事業だ。同時に、車を運転できない人にとって欠かせない地域の足という重い役割がある。真鍋社長は「地方鉄道は長期的には利用客が減っていくビジネス。今後は福祉的な性格を強めていく」と指摘した上で「今起きていることは経営努力とは次元の違う話だ。公共交通を守る方策を市民も交えて全国で議論しなくてはならない」と訴えた。
【用語解説】高松琴平電気鉄道
香川県内の私鉄3社が国策で統合され1943年に誕生した。高松市中心部を起点に3路線を持ち、総延長は60キロ。2001年に経営破綻し、民事再生法の適用を申請した。真鍋康正氏はコンサルティング会社勤務などを経て14年6月に社長に就任。若手社員の意見を積極的に取り入れる社風に変え、斬新なデザインのICカードやポスターが話題となる。人口減が進む地方にあって、14年度に1292万人だった利用者数を19年度は1491万人まで増やした。