【主張】ブラックホール 国際貢献の継承と発展を

 確かに、宇宙の「黒い穴」だった。

 国立天文台などの国際チームが、世界で初めて撮影(視覚化)に成功したブラックホールの画像を公開した。

 驚きよりも、命名(ネーミング)と想像図の的確さに感心した人が多いだろう。

 光さえものみ込むブラックホールの存在は約100年前に理論的に予言されたが、これまでは間接的な手法でしか観測できなかった。直接観測により「想像通り」の姿を捉え、存在を裏付けた意義は大きい。

 約200人の国際チームのなかで、日本チームの22人は大きな役割を果たしたという。国際協力による歴史的成果と日本チームの貢献に敬意を表したい。

 国際チームの日本代表を務めた本間希樹(まれき)教授をはじめ、国立天文台水沢VLBI観測所(岩手県奥州市)に籍を持つ研究者、学生が日本チームのうち9人(他機関との兼務を含む)を数える。

 近代科学、天文学における国際協力と日本の貢献の源流が、水沢観測所にあることも、この機会に思い起こしたい。

 明治31(1898)年、地球の自転のわずかな変動を捉えるために、世界各地の北緯39度8分の地点で、同じ天体を観測する計画が万国測地学協会で決定し、観測点のひとつに水沢が選ばれた。

 翌年、臨時緯度観測所が開設され観測を開始したが、欧米など他の5カ所の観測値と水沢の数値にずれがあり、「評価を半分にする」と通告された。

 初代所長の木村栄(ひさし)博士は観測装置と手法に問題がないことを確認した上で、各国のデータを詳細に検証し当時は知られていなかった1年周期の変動があることを明治35(1902)年に発見した。

 「Z項」と呼ばれるこの変動を計算式に加えると、観測点の緯度がそれまでより高精度で求められ、世界6カ所の観測点のなかで水沢の観測値が最も精度が良いことも分かった。

 ブラックホールを撮影した国際チームも、世界6カ所の電波望遠鏡による同時観測で、地球サイズの巨大望遠鏡に匹敵する高精度のデータを得ることができた。

 天文学に限らず、科学には世界を繋(つな)ぐ可能性がある。

 15日から21日までは科学技術週間である。水沢観測所の伝統を継承し、さらに発展させたい。