「女子会」や「加齢臭」はなぜ定着したのか?
「女子会」「加齢臭」「婚活」--これらのことばには共通点があります。それは、あるとき生まれて、人々の間に広まり、市場をつくり出したことです。このような言葉はどのように生まれ、市場創造へと至るのでしょうか。
私がこのようなことばとマーケティングの関係について興味を持ったきっかけは、2000年前後に起きた「癒し」ブームでした。1999年「リゲインEB錠」(第一三共ヘルスケア。当時は三共)のテレビCMに使用された坂本龍一の「エナジー・フロー」という曲がインストゥルメンタルでオリコン初の1位になり、またソニーの犬型ロボット「アイボ」がヒットしました。こうした現象について、多くのメディアが「癒しの時代にフィットしたからだ」という説明をしていたのです。実際、コンピレーションCDからホテルの宿泊プラン、木造注文住宅に至るまで、多様な業界で「癒し」ということばを使ったマーケティングが行われていました。
「局所的豪雨」か「ゲリラ豪雨」か
この「癒し」ブームでわかったのは、ことばは特定の商品やカテゴリーを超えて、巨大なマーケットをつくることができるということでした。さらに、私たちの振る舞いすら変えてしまうことがあります。今では当たり前のように使われている「癒し」「癒されたい」という表現は、00年以前はほとんど使われることはありませんでした。98年に出版された『広辞苑』第5版を見ると、「癒し」という名詞はなく、「癒す」という動詞しか掲載されていません。その意味も、「病気や傷をなおす。飢えや心の悩みなどを解消する」というものでした。一方、00年代以降の「癒し」は、多くの場合、自分自身を癒すものとして使われています。「癒し」ブームは、私たちのことばの使い方まで変えてしまったのです。