■「一家に1台。テレビ以来のイノベーション」
かつて世界をリードした日本の電子ゲーム産業は、技術革新や国際競争で転換点を迎えている。非現実を体験できる仮想現実(VR)技術の開発が進み、ゲームの楽しみ方が大きく変わろうとしている。技術や競技性が鍵を握る「ゲーム新時代」に向けた業界の現状と展望を探る。
険しい岩山が連なる荒涼とした風景が目の前に広がっていた。2010年、米サンタモニカにあるソニーのゲーム子会社の開発拠点。ソフト開発の最高責任者を務める吉田修平は、スタッフが手作りしたゴーグル型端末の画面に映る光景に衝撃を受けた。
視点の移動再現
「ゲームの世界に入り、自分の体が主人公になっている」
映し出されたのはプレイステーション(PS)3用ゲーム「ゴッド・オブ・ウォー3」のプレー画面。下を向くと筋骨隆々とした“自分”の体が、顔を上げるとギリシャ神話をモチーフとしたゲームの世界が見える。吉田が驚いたのは、現実さながらに視点の移動を再現する技術だ。
手作りの端末は、外部カメラで傾きや動きを捉え、ゲームを操作する既存のコントローラーと、視界を覆うゴーグル型のディスプレーを組み合わせたシンプルなものだ。頭を少し動かすだけで視点が変わり、違った角度から物が見える技術は、ゲームの仮想空間と現実の感覚との垣根を取り払うのに不可欠だ。