間伐材のヒノキを鉄骨並みの強度がある建材に変える画期的な技術が静かに広がっている。森林経済工学研究所(兵庫県加東市)の「キトラス」システムだ。2月に完成した高知県室戸市の屋内運動場のドームは、節くれ立った地元産の丸太を利用している。資格や技能を持たない住民が作業に参加した、森林活用と地産地消の取り組みでもある。
丸太3756本組み上げ
「こんな木で大丈夫ですか?」「素人でも組み立てられるのですね」
2月16日、室戸市のドームを視察に来た静岡県議会議員から同研究所の今井克彦所長(73)は質問攻めにあった。
縦横約50メートル、高さ約20メートルのドームの屋根は、3756本の丸太が、金属接合部を使って四角錐(かくすい)をつなげる「トラス」で組み上げられている。
「節がある木は建材に適さない。鉄など金属の方が強度で木に勝る」という考えが学会や建設業界では支配的だ。
今井所長は1997年まで鉄骨メーカーの研究者だった。そのため鉄とトラスを知り尽くしている。大阪府の花園ラグビー場の大屋根も今井所長が手掛けた。
「鉄骨屋」が木に乗り換えたのは、大阪大教授になって2年目の99年から。宮大工との対話を通じ「節は枝が付いていた位置にある。そのため暴風や雪など最も荷重がかかる部位といえる。樹木が何百年も立っていることを考えれば節が弱いわけがない」という見解に至った。