2016.2.18 05:00
□東京大学政策ビジョン研究センター教授・渡部俊也
2020年には250億台の機器がインターネットにつながると予想されている。いわゆるIoT(モノのインターネット)によって生産設備から生活空間のあらゆる機器が接続し、センサーでさまざまな情報が共有される。そして人工知能までもがつながることで、間違いなくシステム全体の生産性は向上し、消費者の利便性は高まるだろう。
◆巨大な産業生態系
しかし無数の機器をつなげることで、生産性が飛躍的に高まったからといって、その機器の所有者や生産者が利益を得られるとはかぎらない。つながることで価値を生み出しているのは、機器そのものではなく、つながりを価値に転換するソフトウエアである。機器の機能もネットに接続して情報を供給されて初めて価値を生じるのであり、そういう意味で機器を所有していることの価値も失われていく。実際に、さまざまな機器メーカーは、IoTの普及とともに、そのビジネスモデルをサービスビジネスに転換していくのではないか。
そして、そこに生まれるのはさまざまなサービスと、今やサービスの補完財となりつつある機器の製造メーカーから成る巨大な「産業生態系」である。生態系とはもともと生物の用語であるが、ここではさまざまな商品やサービスを取引する企業や、その取引ネットワークを支える組織の集合体を指す。無線通信技術の標準に参加する企業群などは巨大な産業生態系でそこでの利益は一部のプレーヤーに集中する傾向があることが分かっているが、IoTで生まれる産業生態系は、このような通信の企業をも包含する、さらに巨大な産業生態系である。