経営再建中のシャープが本社(大阪市阿倍野区)を家具量販店のニトリホールディングス(HD)に売却する方向だ。「本社は質素にして工場に金をかけるのがシャープ流」としたメーカーの矜持の象徴まで売却することについて、高橋興三社長は「構造改革への強い意志を示すため」と説明する。売上高の約3割を占める主力の液晶事業の売却も検討し、欧米では液晶テレビのアクオスブランドを売却。相次ぐ希望退職で雇用を守る文化も放棄した。社内には「買い手がつけば社名も売るのでは」とため息が漏れる。(松岡達郎)
本社、工場に移転も
5月14日、新しい中期経営計画を発表した会見で、高橋社長は「本社を売却してでも構造改革を遂行したいという強い意志と考えてほしい」と訴えた。
本社の売却は、シャープの株価が下落すると回収できる金額が目減りする「債権の株式化」に踏み切る主力取引銀行のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行に対し「ここまでやる」と示す覚悟の意味があった。
本社所在地は創業から約10年後、関東大震災ですべてを失った創業者の早川徳次氏が大阪で再起した場所で、シャープ100年史によると「人物本位で評価する大阪の土地柄も性に合ったことから、この地で事業を起こそうと決意した。(中略)工場を大きくすることでこの地を発展させたいと願った」とある。かつて社員が「本社は質素に徹し、工場にかける金は惜しまない」とメーカーの矜持を誇った象徴的な存在だ。