「日本企業は変わりましたね。ため込んでいた資金を投資や配当、自社株消却などに回し始めましたからね」
日本取引所グループ(JPX)の最高経営責任者(CEO)を今月16日の株主総会で退任する斉藤惇氏は、ある席で感慨深げに語っていた。野村証券出身で“理論派”の同氏は長年のROE論者。株主から預かった資本を使ってどれだけ利益を上げているかを示すROEを国際水準並みに引き上げることが日本企業にとって不可欠だと主張してきた。
それが2014年度決算では東証1部上場企業のほぼ3社に1社のROEが10%を超えたという。ほんの数年前まで、大企業の大半がせいぜい5%程度だったことを考えると劇的な変化だ。最近では、中期経営計画に「ROE10%以上」を明記する企業も増えた。株式市場も、そうした高ROE銘柄を積極的に評価するようになってきた。要はROEを重視する企業の株価は上がるのである。
日本の企業経営者が突然ROE経営に目覚めたわけではない。大きなきっかけがあった。安倍晋三内閣がアベノミクスで「コーポレートガバナンス(企業統治)の強化」を掲げ、具体的な制度整備に取り組んだのだ。昨年6月の成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」では、日本の「稼ぐ力」を取り戻すとして、ROEを国際水準に引き上げることが明記された。
もちろん、政府がROEを上げろと言ったところで、企業経営者が従う義務はない。ROE重視といわれて20年以上になるが、一向に日本企業はROEを上げようとせず、内部留保をため込んできたのがいい証拠だ。