「ブラジルには進出したばかりじゃないか。まさか、あの建物のコンペに勝つなんて、驚いたな…」
今年3月、15代社長の張本邦雄(63)=現会長=は、海を渡って届いた報告にわが耳を疑った。
サッカー、ブラジルワールドカップ(W杯)開幕戦の舞台となった「アレーナ・デ・サンパウロ」に、最新鋭の節水トイレなどTOTO製品の納入が決まった。6万5千人収容のスタジアムは、2016年のリオデジャネイロ五輪でも使用される。ブラジルが国の威信をかけた建物に、TOTOブランドが採用されたという朗報だった。
TOTOは海外進出を3つのステップを踏んで進めてきた。まず、空港や大型ビルなど、その国を象徴するランドマークに納入、それを足がかりにブランド浸透を図り、やがて一般消費者への拡大を図る。
ブラジルには11年1月に営業拠点を設立したばかり。地場の有力メーカーが圧倒的なシェアを占め、TOTOの知名度はゼロに等しい。ブラジル進出という経営判断を下した張本でさえ、ランドマークへの納入はまだ数年かかるだろうと考えていた。
アレーナ・デ・サンパウロのコンペで決め手となったのは、米国や中東、ASEAN(東南アジア諸国連合)におけるTOTO製品の実績だった。他国での成功が相乗効果を生み、新たな国での成功に結びついたのだ。