東京・下町の町工場が力を合わせ、8000メートルの深海を探査する無人海底探査機を開発した。名付けて「江戸っ子1号」。9月から本格的な試験に挑む。円高に伴う産業空洞化で日本のモノづくりの力は衰えたとの指摘もあるが、「江戸っ子1号」には技術者たちの心意気が凝縮されている。
葛飾のゴム製品製造
「江戸っ子1号」の開発プロジェクトのリーダー、杉野行雄さん(64)。東京都葛飾区で従業員5人の杉野ゴム化学工業所を営む町工場のオヤジだ。
1972年に日大生産工学部を卒業後、杉野さんは父親の創業した工業用ゴム製品メーカーである同社に入り、技術者としてもまれてきた。
父親は戦前、ドイツ・バイエルの日本総代理店の技師長を務めるなど、日本で五指に入るゴム関係の技術者だった。
二人三脚で仕事に取り組む杉野さん父子は、依頼されれば何でも手がけた。家庭用品から原子力関連のゴム部品まで、技術と開発力に定評があった。
大きな転機は、世界的な化学・電気素材メーカー、米3Mから電気ケーブルや配線部をカバーする高電圧に耐えるゴム開発を依頼されたこと。高電圧に対する絶縁性と耐久性を持ち、薄くて軽いゴム製カバーをつくってほしい-との要請を杉野父子はおよそ1年でクリアした。名声は一気に高まり、機械関連の大手メーカーからも開発の難題を持ち込まれるようになる。