世界のファッションの潮流をリードするパリ・コレクションで名をはせたデザイナーたちを魅了し、数々のブランドに洋服の生地を提供してきた織元がある。昨年秋に看板をおろした「みやしん」(東京都八王子市)だ。日本の伝統織物産業が風前のともしびの中、世界を舞台に気を吐いてきたみやしんが今春、文化・ファッションテキスタイル研究所に生まれ変わった。かつて着物から洋服へと家業のかじを切った元代表の宮本英治(65)は所長として、次世代への継承と後進の育成という新たな道を歩き始めている。
廃業一転、研究所に
2012年秋、経営の傍ら教授を務める文化ファッション大学院大学(東京都渋谷区)の学食で宮本は一人、昼食をとっていた。
服地の製造元の多くは激しさを増すアパレルメーカーの低価格競争に巻き込まれる形で、疲弊していた。長引くデフレの影響も色濃く、メーカーは人件費の安いアジアに生産拠点を移し、一円でも安く原価を抑えるため懸命な努力を重ねていた。
みやしんの経営自体は前年を上回る黒字だったが、宮本は先々を見越し「倒産でもして取引先に迷惑をかけるよりは、先に事業をたたもう」と、考えるようになっていた。既に土地の売却先との交渉も進めていた。