急激な円安と原発停止による火力燃料費の増加が、電力各社の業績悪化を招いている。「再稼働か、料金値上げか」(電力大手幹部)の二者択一を求められているのが実情だ。事態を打開しようと、原子力規制委員会の新安全基準が7月に施行された直後から、電力各社の再稼働の申請が相次ぐ見通しだ。
電力各社にとって、発電所を動かす燃料費は経費の4割程度を占め、円安による輸入価格上昇の影響は大きい。1円の円安で、燃料コストは東京電力なら年320億円、関西電力は年134億円上昇する(いずれも2012年度実績)。原発が再稼働しなければ高コスト体質は改善されない。電力8社で計約1兆6000億円の最終赤字を計上した13年3月期決算の発表では「(新安全基準の)施行後、速やかに申請する」(関西電力の八木誠社長)、「まずは川内1、2号機(鹿児島県)。玄海3、4号機(佐賀県)も早めに申請したい」(九州電力の瓜生道明社長)など、各社から原発の再稼働を急ぐ発言が相次いだ。
ただ、再稼働のハードルは高い。規制委は人員不足で、一度に3カ所の原発しか審査できない。新基準では原子炉内の蒸気に含まれた放射性物質を取り除くフィルター付きベント設備などの設置を求めており、工事には数年を要する。東日本に多い沸騰水型(BWR)には猶予期間がなく、東西で再稼働時期に差が出そうだ。
規制委の調査で原子炉直下に活断層が見つかれば、逆に廃炉を求められる恐れがある。福島第1原発事故後に態度を硬化させた地元自治体の了承を取り付けるのに時間がかかる可能性もある。