「値上げは権利」との社長発言で批判を浴びた東京電力の企業向け電気料金。契約期間が残るうちは値上げを拒否できることを説明しないなど東電の不手際ばかりが目立ったが、4月1日の実施から2カ月余り経過し、合意した企業は7割近くにまで達した。一方的な値上げ宣言に不満がありながらも、企業側はなぜ値上げを受け入れたのか。
「電気は血液と同じ」
古くから鋳物の町として知られる埼玉県川口市。その一角に工場を構える「田中鋳物工場」に、東電の担当者が訪れたのは1月中旬のことだった。
「皆さんにお願いしているんです。4月1日からの値上げをお願いします」。担当者は深々と頭を下げた。緊張で顔は真っ赤。その後も「申し訳ありません」と何度も謝罪を繰り返した。
同業者から「冗談じゃねえ!」と怒鳴りつけられたこともあったらしく、応対した田中大裕専務(38)が「よそでは相当怒られてるでしょう?」と聞くと、「そうなんです…」とうつむいた。
田中専務が「同業者と相談しなくてはいけないから」と帰るよう促すと「そうですよね…。即答してくれるところは1件もありません」と肩を落とした。
田中鋳物の場合、東電との契約期限は6月末だった。担当者は3月初旬に再び訪れ、開口一番「4月1日に値上げしなくてはいけないと言ったのは間違いでした」と頭を下げた。