こうした新サービスの海外展開での足がかりとなるのが、ボンジョルノなどの事業者というわけだ。実際、ドコモはスマホが登場し始めたころからコンテンツ配信などのサービス事業者に攻勢をかけており、09年にはドイツの「ネットモバイル」、11年にはベトナムの「VMG」にそれぞれ出資した。
ただ、ドコモの海外事業には苦い思い出がつきまとう。2000年にオランダのKPNモバイルに約4000億円、01年には米AT&Tワイヤレスに1兆2000億円を投じ、豊富な資金力を背景に海外投資を本格化した。ところが、世界的なITバブル崩壊に見舞われ、すべて撤退を余儀なくされ、差し引きで約1兆5000億円の大損失を被った。
当時のドコモの狙いは、独自の「iモード」などを海外で普及させることだった。ところが対応端末が限られ、利用は伸び悩んだ。国際事業部の紀伊部長は「ネガティブな要因が重なってうまくいかなかった」と失敗を認める。ある業界関係者は、「見通しが甘かったといわれても仕方がない」と断じた。
総務省によると、11年度末の携帯電話とPHSの国内加入契約数は約1億3276万台で、国勢調査による日本の総人口(直近は1億2805万7352人)を上回った。携帯電話市場は「1人1台超」の局面に入り、市場の急速な拡大は見込めない。携帯電話会社にとって海外展開は急務だ。さらに、急成長するスマホへの対応は国内外で喫緊の課題となっている。
こうした中、スマホ向けサービスにかじを切るドコモは、今度は不退転の覚悟で海外に挑む。紀伊部長は、「過去はマイノリティー(少数)出資で、(相手を)コントロールしにくかった」と敗因を分析。その上で、今後は「新領域に出ていくときにはマジョリティー(多数)をとらないといけない」と覚悟を決める。スマホの世界市場で、存在感を示せるか。ドコモの底力が試される。(中村智隆)