1947―2022年 一杯の丼…日本人を笑顔にした戦後ラーメンの軌跡

※画像はイメージです(GettyImages)
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1947年、大衆に向けたラーメンがヤミ市からたくましく立ち上がり、ニッポン経済の興隆と共に歴史を重ねてきた。働く者の疲れを癒やし、明日への活力となったラーメンのチカラとは。その時代に出現したラーメン店を軸に日本経済の興隆と変貌、日本人の食文化の変遷を追ってきた本連載。今回は1947年から2020年に渡った22回の連載を総括する。

豚骨、背脂、醤油の香り 時代と共に記憶されるラーメンの姿

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ラーメンは戦後のニッポン経済と共に立ち上がった。1910年、「日本初のラーメンブームを起こした」とされる『浅草來々軒』が浅草で開業。大衆食として各地に広がったラーメンだが、昭和10年代の太平洋戦争と戦後直後の食糧統制期に途絶。ヤミ市の屋台からたくましく立ち上がったのが、「1947-焼け跡に湯気が立つ、信州発の「中華そば」」で紹介した荻窪ラーメンだ。長野県出身のそば職人たちが荻窪に中華そば店『丸長』を創業。そば職人の技術と、そばに由来する魚介ダシの香り。戦後のラーメンはたくましくも、どこか日本食の名残を持って立ち上がった。

その後のラーメンは「働く者」に伴走し、元気づけるエナジー食として頼もしい存在になっていく。「1960-働く者たちを奮い立たせたスープの味 労働者たちの汗が求めた「背脂ラーメン」伝説」で取り上げたのは背脂豚骨ラーメン。たっぷり投入された背脂が、パンチのきいた豚骨スープに豊かなコクと甘みを与え、後年には「背脂チャッチャ系」としてラーメンシーンの中核となる一杯だが、これは高度経済成長のインフラ建設、オリンピック系施設の整備に従事した労働者たちに愛された一杯だ。

この頃に登場した『ラーメン二郎』も、濃厚にしてボリュームたっぷりのラーメン。モヤシにキャベツなど大盛りの野菜に、“豚”と呼ばれる煮豚チャーシューがチョモランマのように屹立。丼から溢れんばかりのスープには豚骨と豚肉が醸し出すコクと甘みがあり、凶暴なまでの油脂も含む。慶應大学の門前、三田で進化した『二郎』のラーメンは学生たちに愛され、現在のガッツリ系ラーメンの源流として記憶される一杯となった。

1987-喜多方が牽引! 極ウマ「ご当地ラーメン」の時代」で取り上げたのは「環七ラーメン戦争」。豚骨を白濁するまで炊き上げ、コッテリした味わいと粘度でクセになるラーメンを引っ提げ、博多ラーメン『なんでんかんでん』がオープン。バブル経済華やかなりし頃、活発化したモータリゼーションと合わせて多くの若者の舌を魅了した。「2001年―デフレ時代に百“味”繚乱! ラーメン激戦区・高田馬場」では学生街・高田馬場で若者を惹きつける『俺の空』『渡なべ』のゼロ年代濃厚ラーメンを取り上げている。

金ピカバブルの反動として無化調ラーメンが台頭した経緯は「1988-バブルと美食の時代に 「無化調」ラーメンの風が吹く」で解説した。その後も「2011年―震災後の日本をヴィヴィッドに照射した3杯のラーメン「2011年組」」で取り上げた『ソラノイロ』の野菜系ラーメン「ベジソバ」、ヴィーガンラーメンといった健康に軸を置くラーメンも登場してはいるが、全体として「濃厚」「コッテリ」「ギトギト」の流れはとどまることがない。

本連載を通して振り返れば、日本人の舌は時代とともに洋風料理になじみ、油を求めてきた。国民栄養調査を参照すると、1人1日あたりの脂肪摂取量は1952年には20.1gだったが、1995年には59.9gと実に3倍に達しており、その後も増加傾向は続く。

不況とベンチャーブームがラーメン起業の起点となる

ニッポン経済がリスタートした戦後直後、ソニーや積水化学工業、本田技研工業、オムロン、村田製作所など、財閥バックボーンを持たない独立系起業が続々と誕生した。これが戦後初のベンチャーブームだ。先述「19471947-焼け跡に湯気が立つ、信州発の「中華そば」」の個人ラーメン店もこの頃に陸続と開業しているが、起業家の志を体現した傑物こそ、「1958-東京タワーとダイエー、そしてチキンラーメン 戦後の「消費者」を創った58年組」「1972-日本中が固唾を呑んだ「あさま山荘事件」 厳寒の山中に…湯気立ちのぼるカップヌードル」と2回に渡って取り上げた安藤百福である。

彼は稀代のイノベーターとしてインスタントラーメン、カップラーメンを開発し、商業的にブレイクさせた。刮目すべきは、彼がチキンラーメンを開発したのは48歳、カップヌードルを発売したのは61歳のときだったという事実だ。日本が人口動態では全体に年老い、市場がシュリンクしていく中、彼のベンチャースピリットに学ぶものは多い。

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