先進的なダイムラー・ベンツDB601/605エンジン
メルセデス・ベンツのクルマ造り哲学は、かつて「最善か無か」といわれていた。第二次大戦中のドイツ空軍主力戦闘機であるメッサーシュミットBf109系列が搭載するDB(ダイムラー・ベンツ)601/605も、まさに「最善」を追求した航空エンジンであった。
DB601(馬力向上のため排気量を拡大したのがDB605)でもっとも特長的なのが、プロペラ軸を通して射撃を行うことで、格段に命中精度を向上させる“モーター・カノン”(機関砲)を搭載するため、列国には類を見ない液冷倒立V型12気筒という気筒配列である。しかも倒立V型は機首上面の形状を絞り込めるため、前方視界が向上するという副次的なメリットも持ち合わせていたのだ。
また過給器(スーパーチャージャー)は、列国が2段ギア式切替を多用しているのに対して、DB系列は先進的な流体カップリング式無段変速(クルマのATミッションに類似)を導入していた。そのため現存するBf109のデモフライトでは、「キーン」と「ヒューン」が入り混じった、一種独特の排気音を奏で大戦機ファンを痺れさせてくれるのだ。
さらに列国の航空機エンジンに対して、決定的なアドバンテージとなったのが、ボッシュ製燃料噴射装置である。気筒内へ燃料を直接噴射するこの方式は、いかなる機体姿勢でも安定したエンジン回転を維持することが可能であった。イギリス本土防空戦では、宿敵スピットファイアに追尾されBf109は、高速ダイブでやすやす逃げ切ることができたのだ。片やキャブレータ方式のスピットファイアは、マイナスGがかかるとエンジンが息つきを起こして、Bf109に振り切られてしまったという訳だ。
これらの先進技術は、いまもメルセデス・ベンツ車に、脈々と受け継がれていることはいうまでもないだろう。
効率主義を貫くメッサーシュミットBf109戦闘機
複葉戦闘機時代の遺物とさえいえる「格闘戦至上主義」に終止符を打ち、単葉戦闘機の最高速度・急降下速度を存分に活用した、近代的な編隊空中戦術の確立が、メッサーシュミットBf109最大の功績といえるだろう。とはいえBf109の実戦運用を語る際に、必ず槍玉に挙げられる短所が、「短い航続距離」と「離着陸事故の多さ」である。
Bf109の開発が始まった1934年、戦闘機の主任務は、第一次大戦以来の戦術的支援であり、後に英仏海峡を飛び越えてイギリス本土に攻め込んだり、遥か北アフリカにまで遠征することになろうとは、発注主のドイツ航空省も、開発を担当したバイエルン航空機製造会社も、夢にさえ思っていなかったはずだ。