クールジャパンの闇と緊縮政策の闇を破れ

クールジャパン機構は「国民の損がでない仕組み」であると喧伝されていた。クールジャパン機構自体は一定の年限で活動を中止し、その段階で清算することが義務づけられている。具体的には、2033年が機構の設立年限となる。なので、政府が出資してもその中止段階で、少なくとも損がでないように会計操作が行われる予定だ。しかし予定はあくまで予定で、そうならない可能性もある。不当に累積赤字を放置してしまえば、まさに国民の税金は消える。官民ファンドが不適切な経営や累積赤字で損失を重ねないように、財務省の諮問委員会が勧告を出すことになってはいる。

東京・霞が関の財務省
東京・霞が関の財務省

しかしクールジャパン機構は現在、かなりの赤字をすでに生み出している。監督官庁である財務省は、同機構がこれ以上赤字を累積するようであれば廃止を勧告している。2021年3月末で、累積損益が309億円の赤字であった。前年同期が231億円の赤字だったので拡大を続けていることになる。

問題はその中身である。事業での損失もかなりあるが、累積赤字の大部分がクールジャパン機構の高い運営費にある。職員1人当たり平均1325万円の年収、また同機構がオフィスを借りている六本木ヒルズ森タワーの家賃が、赤字を生み出す主原因である。まさにバカげた出費で、税金を無駄に浪費していることになる。

いったいわざわざ高額の家賃を払ってまで、都内の超一等地にオフィスをもつ必要がどこまであるのだろうか。また事業の成果と必ずしも連動しているように思えない高額の給与も妥当だろうか。

従来、官民ファンドは、官僚の天下りや、また非効率的な事業を展開して税金を浪費しかねない、と批判されてきた。そもそも海外観光客のインバウンド消費が、コロナ禍前に急増していたのは、クールジャパン戦略が効果をあげていたからではない。金融緩和の継続で、円安が続き、要するに海外から相対的に安い旅費ですごせる国として定着したからであろう。クールジャパン戦略も機構もほとんど価値をもっていないのは、自明だ。

このクールジャパン機構のムダな出費をみていて思い出すことがある。実は私は、大学を出て、いったん出版社で編集者を何年かしていた。その後に大学院に戻り、そこから大学教員になった。その出版社勤務の時代、1980年代後半に、都心に近いオフィスビルに原稿をもらいにいったことがある。ある特殊法人(税金で維持された政府関連機関)のトップに原稿を書いてもらったのだ。そのビルにいって驚いたのは、最新のオフィスをワンフロアぶち抜きで使っていて、入り口に女性秘書がひとり待機していて、あとは室内の奥まで赤いカーペットが敷き詰められていた。その遠いどんづまりに高価な応接セットとどでかい机に座ったその元官僚の温厚そうな老人がいただけだった。クールジャパンもこれに似た、官僚たちの国民の資産をむさぼる行為だろう。

あえて言えば、このようなクールジャパン戦略でのムダよりも、より深刻なムダがある。それは日本経済の潜在能力を活かしきれていないムダである。日本経済は20兆円ほど、その潜在能力を活かすためにはお金が不足している。これを動かすことができるのは政府の政策だ。

だが、ここでも官僚たちは国民のムダを増殖させている。財務省の緊縮政策は厳しく、いまの岸田政権はこの財務省の手の中で動いているようにしか思えない。日本の生活向上には、政府が率先して、大胆に財政政策。金融政策を稼働させることが重要だ。そのための具体的な政策は、この連載でも何度も指摘してきたところである。官僚に責任を押し付けているのではない。実際にはそのような危機の中で緊縮財政をもとめる財務省のような組織を延命させている、政治の問題である。この参院選の最中でそのことを強く思う次第である。

さて「田中秀臣の超経済学」と題して、2016年3月に産経デジタルによるiRONNAで開始し、それからSankeiBizに掲載を移してから今回まで総計271回続いた連載も、SankeiBizが休止することで今回が最後になってしまった。残念であるが、そもそも無限に続く連載などどこにもないのだから仕方がない。IRONNAからまたSankeiBizまであしかけ7年もの間、愛読していただいた読者の方々、担当いただいた編集の方にはこの場を借りて感謝します。

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