ウィル・スミスは偉い!と擁護する日本、「暴力」と非難する米国 ビンタは“正当防衛”か

    いやあ、驚きました。何がって、ウィル・スミスですよ。そう、あのウィル・スミスがアカデミー賞という大舞台でなんと司会者をビンタしてしまったのです。いわゆる「ガチ」で。もちろんこれ、犯罪行為です。日本の刑法で言えば、208条の暴行罪で「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料」に処せられます。もし、司会者のクリス・ロック氏がビンタで怪我をしてしまっていたら、もっと重い傷害罪になり、「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(204条)に処せられることになります。

    米国の俳優、ウィル・スミス氏(酒巻俊介撮影)
    米国の俳優、ウィル・スミス氏(酒巻俊介撮影)

    「暴力はNG」の米国VS「妻を守った」論の日本

    今回、クリス・ロック氏が被害届を出さないということで、おそらく刑事事件にはならないのでしょうが、日本の刑法上は(おそらく米国でも)逮捕されてもまったく不思議ではない事件なのです。

    日本の世論には、こんな意見が聞かれます。

    「言葉の暴力に対して抵抗したものだから正当防衛だ」

    これ、もちろん法的には間違いです。正当防衛は成立しません。ただ、言わんとしていることは理解できます。こうした意見を言っている人は、決して法的な意味での正当防衛を主張しているわけではないのでしょう。なので、今回は、もうちょっと広い視点でこの問題を検証してみたいと思います。

    この事件、日本と米国の価値観の違いを認識する大きなきっかけとなりました。両国でウィル・スミスに対する評価の点で大きく違いが出ているのです。その前提として、この事件をもう少し詳しく説明する必要があるでしょう。ウィル・スミスがなぜ司会者のクリス・ロックをビンタしたのか。それは、この司会者が壇上で行った、ある「ジョーク」がきっかけとなります。

    「『G.I.ジェーン』の続編を楽しみにしているよ」

    クリス・ロックは壇上でこう語りかけました。語りかけた相手は、ジェイダ・ピンケット・スミス。ハリウッド女優で、ウィル・スミスの妻です。このジョークは、丸刈りにしているジェイダの髪型を揶揄(からか)ったものでした。『G.I.ジェーン』は1997年の米国映画です。女性兵士が周囲の男性兵士と同じように厳しい訓練に耐え、やがて男性兵士たちから仲間として認められるようになっていくというストーリー。この『G.I.ジェーン』の女性主人公が丸刈りだったことにかけてのジョークというわけです。

    クリスのこのジョークに、ウィル・スミスは腹を立てました。実は、その背景には、妻ジェイダが長年脱毛症に悩まされていたという経緯もあります。ウィル・スミスはそんな悩みを抱えていた妻を茶化されて、夫として黙っていられなかったのでしょう。

    米国では、概ねウィル・スミスが強く非難されています。同じハリウッドスターのジム・キャリーなんかは、「私なら訴える」なんて言って厳しく糾弾しています。一方、日本ではウィル・スミス擁護の声が圧倒的です。梅沢富美男さんなんて、「(ウィル・スミスと同じ立場だったら)俺もやるね」とまで言い切っています。日本の世論の中には、「米国はルッキズム(外見至上主義)批判の先進国だと思ってたのに、がっかり」とか「司会者の悪質なジョークに、周囲が笑っていたことにびっくり」といった声も聞かれました。


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